What's Djembé Music?

今、世界中の国々で熱い支持を得ている西アフリカ伝統の太鼓―ジェンベ。
初めて聴く音・・・だけどいつかどこかで聴いたような・・・心踊る音楽。
不思議な力を持ったジェンベと、歌やダンスからなる西アフリカの音楽。

今や世界中の国々に知られ熱い支持を得ているジェンベ音楽は、アフリカ大陸の西部=西アフリカで古くから催されてきたお祭り音楽です。「ジェンベ※1」と呼ばれる素手で演奏する太鼓、「ドゥヌン」と呼ばれる筒太鼓、そして歌やダンスが有名です。そのスタイルは地域によってさまざまで、あまりの多様性に正確な説明は非常に困難です。私たちにとって意外であり、もっとも驚くべきことは、古来から続く伝統音楽であるにもかかわらず同時に現在進行形で発展をとげていく現代音楽でもあるという点でしょう。ジェンベ音楽は今もなお西アフリカで最も愛される音楽なのです。


 ジェンベは、一本の巨大な木を削って作られる独特の形をしたお祭り太鼓。胴体は高さ60cm程、打面は直径30〜37cm。ヤギの皮を張ってつくられるジェンベ太鼓は、簡素なかたちからは想像もできないほど幅広い音を奏でることができます。その豊かな音色は初めて聴く音なのに・・・けれどもいつかどこかで聴いたような気にさえする・・・太鼓の音に馴染みの深い私たちにとっては新しいけれども懐かしささえ覚える不思議な音です。
 またラテンの源流でもあるアフリカの音楽は基本的にダンス・ミュージックでもあります。心踊るような、あるいはどきどきするようなジェンベの音色が、まるで絵画のごとく色彩豊かに私たちの身体に響き、果ては心の奥底に潜む私たち自身の原風景へと導いてくれる…そんな強力な力さえ感じてしまうのです。


 かつてヨーロッパ諸国に占領された血の暗黒時代を長い間耐え続け、今現在、西アフリカにはいくつもの新しい国ができています※2。そして、それらの国々の国境を越えた広い地域に農耕部族マリンケ族※3の人々はくらしています。
 古から現在まで、マリンケ族の村々では日常的にジェンベ音楽が演奏されてきました。ジェンベ音楽が演奏されるのは、お祭りなど村の特別な行事や祝い事のときだけではありません。交友関係を深める場、愛情を育む場、大切な仕事をする場、大人として認めてもらうための通過儀礼の場など、さまざまな生活習慣の中でジェンベ音楽を必要とし大切な文化として親しんでいます。
 たとえばマリンケの人たちがジェンベ音楽なしで畑仕事をするなんてことは、まったく考えられないことだったりします。アフリカの太陽の下で行われる激しい畑労働を支えるのは、村人たちを励ます力強いジェンベやドゥヌンの音であり、それとともに声高らかに唄われる娘たちの歌声なのです。村人全員で大きな漁をするときもまた同じです。つまり、マリンケ族の生活はジェンベ音楽と共にあると言ってもいいかもしれません。村人全員でお祭りを催し、村人が演奏し、村人が歌い、村人がダンスをします。大げさに言えば、もはや一年中がお祭りの日々なのです。
 数あるリズムやダンスの複雑さが、この長い伝統的お祭り習慣を物語ります。その種類はあまりに多すぎて、誰にも正確な数が分からないほどです。 西アフリカを代表するほど有名な“たくましい男たちのためのリズム”から、“森の秘密を知る狩人のリズム”や“錬金術をおこなう鍛冶屋のリズム”、“幼い少年・少女のためのダンスリズム”まで、老若男女・各職業それぞれの役割ごとに固有のリズムやダンスのステップを持っています。その全てが日々の行事や特別な儀式を通して、はるか昔より代々伝えられてきたものなのです。


 このような西アフリカの村々にあたり前のように存在し、かつ最も尊重されている暗黙のルールがあります。それは「調和の精神」です。なぜ「調和の精神」がお金よりも個人の欲や権利よりも大切なのでしょうか。複雑な事柄をあえてシンプルに断言するとすれば、それは村(=共同体・家族)というものが人々のいろいろな「調和」によって成り立っているからなのでしょう。
 そして、ジェンベ音楽の中心に据えられているのもまた「調和」なのです。-「調和」の意味するところは、私たちにとってそれほど難しくはないでしょう。なぜなら、私たちもまた「調和」を大切にする民族だからです-人と人が「調和の精神」を持って社会的に「調和」していくことと、音楽的な「調和」を実現することは同じことです。それぞれ個性をもった個々の部分(リズムフレーズ)がうまく絡み合い、心地よく支え合いながらメロディーを奏でる(アンサンブルする)ことで、よどみなく流れるように社会全体(音楽全体)を構築していくのです。
 ジェンベの演奏者は自分自身の調和とともに一緒に演奏する仲間との調和を常に心掛けています。それは『目に見える世界(=五感の世界)全体の調和』へとつながっていきます。


 さらにアフリカの世界では次の次元へも飛躍していきます。たとえば村の演奏者の場合(ジェンベやドゥヌンに関わらず)、自身が演奏する音楽が『目に見えない世界(=神仏・精霊の世界)』にまで影響を与えることをはっきりと理解していると言います。一人の人間が家族や仲間とだけでなく、目に見えない世界にいる精霊や先祖の人々とも調和を持って生きることができていて、はじめて『真に精神が健康である』と、アフリカの伝統では考えられているのです。


 西アフリカの人たちにとってジェンベ音楽とは、村をとり巻くさまざまな世界に良いバランス(「調和」)をもたらし精神を安定させてくれる、次元を超えた「癒しの音楽」であり、また日常の苦悩から離れ心と身体に力をみなぎらせてくれる「お祭り(ハレ)の音楽」でもあるのです。
 こうした特性を持つジェンベ音楽が今、この音楽に関心を持ち、演奏したり、参加したりして楽しむたくさんの私たちの仲間にとって、まったく同じ影響力をもち良い力になることを信じてやみません。


<注釈>
※1 日本では「ジャンベ」という名称でよく知られている。部族語本来では「ジンベ」あるいは「ギンベ」と呼ぶ。
※2 アフリカ大陸に引かれた国境線はすべてヨーロッパ諸国によって分割・決定されたものです。今あるアフリカの国々はそこから独立したものにすぎません。
※3 広義でマンディング族と呼称。マリンケ族をはじめとしたたくさんの部族がマンディング族であり、歴史的に強いつながりを持っています。かつてマンディング族は西アフリカの広域にわたってくらしていましたが、占領・暗黒時代を経て完全に分断されてしまいました。

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